sumiikasumiの日記

とりあえず始めたところです

墨烏賊墨の千夜十冊~世界が変わる現代物理学 @竹内薫

千夜十冊は読書録です。

千夜千冊@松岡正剛氏には到底及ばず、百冊にも挫折しているので、

十冊のオーダーにて(^-^ゞ

なお、テレコムキャリアとの契約帯域幅を超過して鈍足通信になり、午前中に契約帯域をワンランク上げてきましたが、

依然としてこちらから皆様のブログを読みに行くのが難しい状態になっており、悪しからずご了承願いますm(__)m

・・・

初回は、

あれこれ迷うところであるが、

サイエンスライターである竹内薫氏の「世界が変わる現代物理学」(↓)。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480061935/
竹内薫、同上、2004/09、筑摩書房

なぜ、取り上げるか? の「理由」であるが、

◇ 昨年来からの「フェイク」に観られるように、「虚構と現実」の境目や関係が、問われているから。

◇ 問われているというのは、何かを取り上げる場合の我田引水の常套句であるが(笑、近年のコミュニケーション技術の進展と重要な国政選挙との関連で、現実に社会的・政治的に「フェイク」が問われているだけでなく、根源的な現実の虚構性が、「自然的世界観」の見直し、という形で問われているから。(物理学のSF化)

◇ 「脳は物理的世界の構造を写し取ってきた」という場合、それは、環境という物理的拘束条件を、DNAに、生化学的拘束条件として写し取ることであるが(itのbit化)、物理的世界の構造を写し取ろうとしてきているのは、ヒトや生物だけでなく、「機械」でもとなっているから。(所謂、AI)

現実と虚構、物理学のSF化、itのbit化、AIが取り上げる理由であるが、

取り上げる理由が、「感想」のほとんど全てであると言ってよい。(私見)

以上A面で、終わり。

以下はB面で、概要とどうインスパイアされたのか・・やや長いおまけである。

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以下、B面。

同書の後書き(おわりに)の冒頭にある「脳は物理的世界の構造を写し取ってきた」(p219)の箇所のくだりが、自分にとっての主たる関心事項である。

つまり、終わりが始まりに相当するのである。

何らかの始まりは、何らかの終わりを前提とするが、

同書の論旨は、

全ての物事の始まりに相当する「ものとは何だろう?」という物の見方(存在の在り方)についての見方が、大きく変化している、ということである。

だから、世界が変わるという表題となる。

(考え方についての考え方が「哲学」であるから、同書は、哲学書である)

・・・

概要を各章ごとにコンパクトに。

第一章、思索としての物理学。

《コメント》
・ それ(物理学)は思想以外の何者でもない。

・ 世界は「モノ」ではなく「関係」なのだ、つまり「コト」なのだ、というのが同書の論旨/結論であり、同時に、それは世界観が大きく変わっている、ということの意味なのだが、その嚆矢としての電磁場を取り上げている。

第二章、SF的世界観への前哨。

《コメント》
・ 科学思想では、実在論と実証論とがせめぎあい続けてきた。

実在論は、「奥底に隠された実在がある(はずだ)」というリアリズム。実証論は、「データと数学と論理しかいらない(はずだ)」という(究極の)経験主義である。

・ 著者は、物理的世界観が上記の「実証論」に鞘寄せしている、という論旨。それが世界が変わる、の意味であると同時に、それはリアリズムから遠ざかるため、SF的だとしている。

・ 現実と虚構。

・ 自分(私)は、「実在論」の立場。実在論は納得という感覚に拘ってしまう。実証論は納得の感覚より、納得できなくとも説明できればよいという感覚。

第三章、ピカソ相対性理論

《コメント》
特殊相対性理論の話。省略。

・ 思想史としてフッサールらの現象学に関わっている。「間主観性」という概念が、特殊相対性理論の相対性に対応するからであり、それらは、1950年代以降の構造主義のルーツでもある。正確には、現象学特殊相対性理論の間に、クラインのエルランゲンプログラムが挟まる。

第四章、量子は踊る。

《コメント》
量子論の話。省略。ボーム流の実在論による解釈の紹介がユニークである。

第五章、世界はループからできている。

《コメント》
・ 世界を実証論的に捉えた場合の、究極としてのループ量子重力理論(による世界描像)の紹介。

・ 者(モノ)と物(モノ)は独立していなくて、存在しているのは、モノとモノとの関係だ(それすなわち、出来事としてのコトだ)という論旨を再確認している終章だが、ループ量子重力理論の真骨頂は、そのリアリティを否定しにくい時空ですら、抽象的な概念同士の関係から導こうとするところにある。

・ 自分(私)は、それ(ループ量子重力理論)に全く疎く、著者の解説を読んでもよく分からない(´・ω・`)

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読んで後書きにインスパイアされたのだが、

本書の著者らしさは、イントロ(はじめに)の箇所にある。

著者はファイヤーアーベントの影響を強く受けていて、イントロで、全体の繋がりと要点を俯瞰する、という作業を行っている。

世界がコト的だ、関係なのだ、ということを、ノンフィクション内ノンフィクションの形で、実践しているわけだ。

同じく著者は、ファイヤーアーベントの「目次が要約である」という方法論も重ねてイントロで実践している。

ただし、著者は、目次を要約にするという試みを既に著者による「99.9%は仮説」(↓)でやってしまっているので、それを本書では繰り返していない。

http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334033415
(竹内薫、「99.9%は仮説~思いこみで判断しないための考え方」、2006/02、光文社)

併せて、現実がSF的であることを、著者は、本書にて、ノンフィクション内フィクションを提示して実践してもいる。(第四章)

全体を通して、世界の「メタ構造」(現実と虚構の往来)を主題としているが、

同時に、著者は、本書自体の構成にメタ構造をとらせることで、

コト的世界観を読者に反復提示しようと試みているわけである。労作である。

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